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【第1部】 第22話 一か月前のこと②

last update Date de publication: 2025-07-08 20:01:51

 病院に到着すると、すぐに青年は手術室へと運ばれていく。

 閉じられた扉を見つめ、私はどうすることもできずにただ青年の無事を祈り続けた。

 しばらくすると彼の両親が到着する。

「君が、透真が助けたっていう?」

 彼の父親らしき男性が声をかけてきた。

 その後ろでは、母親と思われる女性が物凄い形相で私を睨みつけている。

 彼女は私の側へ駆け寄ってきたかと思うと、その手が高く振り上げられた。

 パンッ!

 静かな廊下に、乾いたその音だけがやけに鮮明に響いた。

「あなたのせいで、透真はっ……」

 声を震わせながら涙をこぼす母親の瞳には、恨みや怒りの感情が滲んでいた。

 そんな母親の肩に手を置いた父親は、そっと彼女を抱き寄せる。

「ごめんなさい、私……」

 私の声も体も、震えていた。

 頬が痛い……でも、心はもっと痛かった。

 ゆっくりと視線を上げる。

 私を憐れむように見つめた父親が、そっとつぶやいた。

「もういい、君は帰りなさい」

「でも……」

 私の言葉を遮るように、母親が叫んだ。

「あなたの顔なんて見ていたくないのよ!!」

 ズキン……。

 言葉が刺さり、私の心は激しく痛んだ。

 母親の言うことはもっともだ、私の顔なんて見たくないだろう。

 そう思っても、帰ることなんてできるはずがなかった。

 母親たちの視界から遠ざかった廊下の隅の方で、私は彼の手術が終わるのを待つことにした。

 数時間後、手術室から出てきた医師が彼の両親と何か話している。

 私はそっと医師の声に耳を澄ました。

「手術は成功しましたが、彼の意識が戻りません。大変申し上げにくいのですが、いつ意識が戻るかわからない状態です」

「そんな……」

 母親がその場に崩れ落ちると、その隣で父親も項垂れるように肩を落とす。

 私はどうしていいかわからず、その場に立ち尽くしていた。

 すると、まだ私がいることに気づいた母親がこちらへやってくる。

 鬼のような形相をした彼女の瞳は、涙で溢れていた。

 私の前に立った母親は、もう一度私の頬をおもいきり叩く。

「あなたのせいよ!! どうしてくれるの……私の透真を返して! 返してよ!!」

 母親は私の両肩を強く掴むと、激しく揺らした。

 彼女の手がゆっくりと私の首元に伸びてくる、その手は微かに震えていた。

 私はそっと目を閉じ、ピクリとも動かない。

 恐怖を感じていないわけではない。ただ、今は母親の気持ちを受け止めたかった。

「やめなさい! 彼女だって被害者なんだ。

 透真がしたことだ……彼女が助かってよかったじゃないか。

 それに意識だって、またいつか取り戻すかもしれない」

 母親を私から引き剥がした父親は、静かに私を見つめる。

 そして、そのときできる精一杯の笑みを作り、私に微笑みかけた。

「すまなかった……彼女は今興奮しているんだ。

 君も、あまり自分を責めないように」

 父親は今にも崩れそうな母親を優しく支え、私に背を向けた。

「本当に、申し訳ありませんでした!

 ……ずうずうしいとは思いますが、またお見舞いに来ても……いいですか?」

 私は恐る恐る尋ねた。

 こんなこと言える立場ではないことは重々承知している。それでも、私の気持ちが収まらない、このまま終わることなんてできなかった。

 母親はもう疲れたのか、何も言ってこなかった。

 虚ろな目で虚空を見つめている。

 父親が少しの沈黙のあと、私の問いに答えた。

「少しだけ、日にちを空けて来てほしい。……君の名前は?」

「っ如月流華です」

「如月?」

 父親は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに力なく微笑んだ。

「わかった、伝えておくから、受付に君の名前を言えば案内してくれる」

「ありがとうございますっ!」

 私は深々と一礼し、二人の背中をいつまでも見送っていた。

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Commentaires (1)
goodnovel comment avatar
憮然野郎
男性が意識を取り戻せないなんて……流華はもちろん、両親もさぞ辛いでしょうね...
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